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右の「視聴聞味図」の中心の「人」は、環世界主体としての生物一般のことではなく、明らかに人間のことです。
すでに書きましたように、梅園は、ユクスキュルの「境世界」を「天地」という語で表現しております。 印刷版『玄語』からは省かれた文の中に次のようなものがあります。「復」は復元部分の意味です。 一三七九八17復 蠧は器物を天地とし。蟫は衣帛を天地とす。菌は朽質を天地とす。 (蠧;しみ。きくいむし。蟫;しみ。衣類や本に付く虫。菌;きのこなど。) 一三七九八18復 黴は湿體を天地とし。毛髪は獸身を天地とす。羽翮は禽身を天地とす。 (黴;かび。羽翮;うかく。鳥の羽のこと。) ここで言う「天地」は、ユクスキュルの「境世界」と同じ意味です。鳥の羽までも生き物のようみなすのは、それ自体は生物とは みなされていないけれども、生まれて成長し、寿命が来れば脱落して次の羽に入れ替わるという生命のリズムを持っているからです。 三浦黄鶴は当時の杵築藩を襲った飢饉によって経済的に逼迫していたため、こういう部分を抹消したのですが、実はこれらの記述は、 「小冊物部」における梅園の天地論が、フォン・ユクスキュルの環境世界論に先駆する重要な業績であったことを示す貴重な記述なのでした。 図の上を解説します。 (目/視)の象限 明 ・・・ 明るさ 象∥色< ・・・ 「象」(しょう)は水を含まないもののこと。「色」(しき)は太陽の光。 暗 ・・・ 暗さ 白 ・・・ 太陽の光の色。白色光。最も明るい色としての白。 持呈 彩< ・・・ 地表の物体が表面に現す色彩のこと。 黒 ・・・ 暗闇の色。最も暗い色としての黒。 (舌/味)の象限 乾 ・・・ 乾燥のこと。 質∥性< ・・・ 「質」は水を含むもののこと。「性」は光と水が混じり合った世界。生命世界。 潤 ・・・ うるおい。 淡 ・・・ 薄い味のこと。 有畜 性< ・・・ 蓄えること。味を長く保つこと。漬物など。 濃 ・・・ 濃い色・濃い香り・濃い味など。 以下略記します。右象限は音または声のこと。左象限は匂いまたは香りのこと。 左の「交字舞踏図」は、生殖行為による繁殖と前足(人間ならば手)と後ろ足を使っての活動を示しています。 |