玄 語 読 解 辞 典
Basic Terms and Propositions for Global Japonica Project

【2】

「玄語」初筆復元版

本宗/侌昜/一二 -2/13-



00028: 一は徒らに一なれば則ち分合せず〉

【一】いち 全体性の代数表記。
【徒】いらずらに ただたんに。無益に。
【則】そく。すなわち 必然的に。論理的には「ならば」(⇒)に相当する。
【分合】ぶんごう 「不分合」で ぶんごうせず。ひとつもののでありながら、ふたつに分かれたり、またひとつに合わさったりしないということ。
【文意】 一がただの一であれば、分かれたり合わさったりはしない。

00029: 二は徒らに二なれば則ち剖對せず》

【二】に  相補的な二項に展開されたものの代数表記。
【徒】いたずらに ただたんに。無益に。
【則】そく。すなわち 必然的に。論理的には「ならば」(⇒)に相当する。
【剖對】ぼうたい 「不剖対」で ぼうたいせず。ひとつのものから分岐したり、対応関係を形成したりしないということ。
【文意】 二がただの二であれば、二分岐による一対一対応を形成したりしない。

ここでは、前出の3個の「一」の図を連想すれば良い。やじろべえ型の連鎖が「玄語」の本質的な構造である。

00030: 一二は徒らならず。

【一】いち 上の(一)のこと。

      (一) ----概念的には「性」とされる(一性)
      /\
    (一) (一) --概念的には「体」とされる(二体。陰体と陽体に分かれる。)
【二】 下のふたつの(一)のこと。この連鎖は、上にも下にも際限なく続き、偶関係を持つ。
【不徒】いたずらならず この文脈では、たんなる数ではない、と言うほどの意味。
【文意】 上位の一と下位の二は無関係なものではない。

00031: 立てば則ち各なり〉

【立】りつ 全体から分かれ出た無数の部分が他と異なる独立のものとして存在すること。

【則】そく。すなわち 必然的に。論理的には「ならば」(⇒)に相当する。
【各】かく。おのおの それぞれ独立のものであるということ。
【文意】 分立すればおのおの独立した存在である。

これは「神為天成」しんいてんせい の「神為」の作用である。


00032: 成れば則ち全なり》是を以て

【成】せい。なれば 一全体として形成されれば。
【則】そく。すなわち 必然的に。論理的には「ならば」(⇒)に相当する。
【全】ぜん 全体性を持つ自立した存在としてあること。
【是を以て】ここをもって こういうわけで。これを条件として。
【文意】 自然界全体と調和する存在となれば全体性を持つものとなる。それ故に、

これは「神為天成」しんいてんせい の「天成」の作用である。この「天」を形成するのが「条理」である。
15985:類を分つは專ら條理に由る。また、16010:類を分つは則ち條理の天に由る。と書かれている。


00033: 剖を以て一を分つ〉

【剖】ぼう 二分岐すること。
【一】いち 二分岐する前の存在の代数表記。
【分】ぶん 二つに分割すること。
【文意】 二分岐によって一全体を分割する。

00034: 對を以て二を合す》

【對】たい 相補的二項として対峙すること。
【二】に  相補的二項として展開された状態の代数表記。
【合】ごう 合わさって一段階高次の全体になること。
【文意】 相補的二項によって二つのものを一つに合わせる。

ジグソーパズルを連想するとわかりやすい。相補的二項となる二つのピースはバラバラのピースの中から探し出されて初めて相補的二項となり、ひとつに合わせることができる。 「条理」の語は概念のピースである。それは自然界の諸存在と一対一に対応しているから、語の整合性は自然界の整合性であり、語の不整合は自然界との不一致を意味する。 相補的二項関係が語と自然界のあいだで共通して成立する範囲が、梅園の「条理学」の妥当範囲 logical scope, applicable range である。

00035: 剖けば 則ち經なり〉

【剖】ぼう 体偶関係 pair relation を以て相補的二項に切断すること。
【則】そく。すなわち 必然的に。論理的には「ならば」(⇒)に相当する。
【經】けい 条理の体系に於いては、縦方向(展開方向)を意味する。
【文意】 切断は、条理の縦方向と成る。

1枚の紙を2枚に切り、その2枚を重ねてきって4枚に、それを重ねて切って8枚に、更に重ねて切って16枚に、・・・・、という切断の操作を際限なく繰り返すのが 「剖析」ぼうせきである。最初の1枚が無限に広い場合、どんなに切断を重ねて小さくしていってもやはり無限に広い。

そもそも最初の紙が何回目に切断された紙の一片なのかは誰にもわからない。最初の紙に自然数すべてが書かれていたとすると、どんなに小さくなった(ように見える)紙にもすべての自然数が 書かれている。すべての紙は、切断される前の紙である。従って2の0乗となる。つまり「一」である。それを図にしたのが前出の「経緯剖対図」である。

例えば、時間が現在によって切断されて過去と未来に分かれるとか、自然界が生活圏(地球生命圏)と非生活圏(自然科学的宇宙)に分かれるとか、生物が動物と植物に 分かれるとか、人間が男性と女性に分かれるとかがそういう例であり、枚挙にいとまがない。


00036: 對すれば則ち緯なり》

【對】たい 相補的二項として対峙すること。
【則】そく。すなわち 必然的に。論理的には「ならば」(⇒)に相当する。
【緯】  条理の体系に於いては、横方向を意味する。地球の緯線から類推されたもの。
【文意】 切断されたものの対立は条理の横方向に成る。

1枚の紙を2枚に切る操作を繰り返すと、紙は、2,4,8,16 → ∞と増えていく。それが「経緯剖対図」の同心円上の「一」に対応する。これが条理の横となる。 00015:で紹介した「経緯剖対図」を参照のこと。

00037: 之を經し之を緯す。條理は自から分る。錦を以て之を言うに。


【之】これを 全一者、また、これから分かれ出たもの。条理による世界構成の中にあるもの。
【經】けい 全一者から始まる二分岐の際限ない連鎖。世界構成の縦の構造。
【緯】う  「条」の展開の次元を結ぶ概念的な線。世界構成の横の構造。
【条】じょう 二分岐。二分岐の連鎖は「条貫」という。
【理】り  ふたつに分かたれたものの内部構造。生物が動物と植物に別れた場合、動物と植物の理は異なる。人と男女も同じ。
【自】じ  おのずから。他の力を借りずに、あるいは、おのれ自身の内的必然性によって。
【分】ぶん 相補的二項に分かれること。
【錦】にしき 様々な色糸を用いて織り出された織物。梅園は自然界を錦にしきの織物に例えている。
【文意】 一元気を縦に割り横に配置すると、条理は必然的に分かれる。錦の織物によって説明すれば、

00038: 爲物は經緯朱緑なり〉

【為】い  為す。為す。厳密には「いす」と読むが「為成」いせいの「い」であることを理解していれば 「なす」と読んでも良い。梅園は「為る」すると読むことも多い。作用すること。「成」せいの対語。
【物】ぶつ 物質。素材。「為物」で「為す物」。
【經】けい ここは比喩であるので、縦糸のこと。
【緯】い  横糸のこと。
【朱】しゅ 朱色。
【緑】りょく 緑色。

「經緯朱緑」が、次の「鸞鳳華卉」の素材である。

【文意】 為すものは経糸・横糸・朱色・緑色などである。

00039: 成物は鸞鳳華卉なり》

【成】せい 成ること。空間的に成立すること。「為」の対語。
【物】ぶつ 物質。素材。「成物」で出来上がったものの意。
【鸞】らん 中国の伝説上の鳥。雉キジに似て、雉よりも美しく、鳴き声が五音(ごいん)に合うと言われる。
【鳳】ほう 鳳凰(ほうおう)。中国の伝説上の鳥。孔雀に似ているが、いくつかの動物を合わせて作られた姿である。
【華】か  美しく艶あでやかな花のこと。
【卉】き  多くの草のこと。
【文意】 出来たものは美しい鳥や鳳凰や草花などである。

「鸞鳳華卉」が、前の「經緯朱緑」の製品である。比喩ではあるが、アリストテレスの「目的因」に該当する。


00040: 其の神は則ち巧婦の意匠なり。是を以て錦は必ず一經一緯なり。

【神】しん 活動性のこと。アリストテレスの「作用因」(動力因)に該当する。
【巧婦】こうふ 織物を織る婦人。織り姫。
【意匠】いしょう デザイン。より良い形を作るための設計。
【錦】にしき 様々な色糸を用いて織り出された織物の総称。
【一經】いちけい 一本の縦糸。また、縦糸全体。
【一緯】いちい 一本の横糸。また横糸全体。
【文意】 それを織らしめるものは巧みな織姫の意匠である。織物であるが故に、それは縦糸と横糸から出来ているのだ。

00041: 神は用し物は成る。是に於て

【神】しん 活動性のこと。「神」は時間を存在の場とする変化因。
【用】よう 作用すること。用いること。
【物】ぶつ 素材。物質。「質料」に該当。
【成】せい 「神」の作用で「物」が形作られること。形作られたものは空間を存在の場とし、時間の中で変化・変容する。
【是に於て】ここにおいて そこで。であるから。
【文意】 造化の力である神 しん が作用して大自然が成立する。だから、

「神」しんには適当な訳語が見当たらない。現代日本語はヨーロッパの翻訳語から成り立っているので 今日の言語空間は江戸期以前の日本語の言語空間とはおよそ異質である。江戸以前の言語空間を作っていたのは応神朝以来流入し てきた中国の古典であるから、日本国民は常に借り物の言語と思想の中で生きてきたのだ。つまり、中国から借りてきた傘を約1000年、 それ以後約150年は西欧から借りた傘を差してきた。しかし、前者から後者に持ち換える間の数十年の間に「青天井の日本」が出現した。 この時生まれたのが三浦梅園であり、その第一主著「玄語」である。「神」は中国の文字である。意味は梅園独自のものである。 その後の言語空間は西欧の翻訳語で作られていて「玄語」という著作は時代の流れの中で忘れられていったのだから、適当な訳語などあるはずがない。

00042: 一緯の經と分れざる無し〉

【一緯】いちい ここでは、一本の横糸。
【經】けい ここでは、縦糸。
【分】ぶん 分かれること。分離すること。
【文意】 一本の横糸が経糸から分かれないことは有り得ない。

00043: 一經の緯と合せざる無し》

【一經】いちけい ここでは、一本の縦糸。
【緯】い  ここでは、横糸。
【合】ごう 「合せざる」がっせざる。ひとつに合わさること。統合されること。
【文意】 一本の縦糸が横糸と合わないことは有り得ない。

00044: 合すれば則ち龍起鸞舞す。

【合】ごう。 「合すれば」がっすれば。縦糸と横糸が、巧婦の機はた作業によって合わさること。
【龍起鸞舞】りゅうきらんぶ 龍が昇り鸞が舞う。ともに中国の神話上の存在。大自然の躍動感と美麗さの比喩表現。
【文意】 縦糸と横糸が合わされば、大自然の躍動と妙麗さが現出することになる。

 この「龍起鸞舞」は、大自然の壮大さと美しさの比喩にすぎないから文字にはこだわらない。


00045: 龍起鸞舞すと雖も。而も

【龍起鸞舞】りゅうきらんぶ 上に同じ。
【雖】いえども ・・・ではあるけれども。
【而】しかも それでも。そうである上になお。
【文意】 龍が昇り鸞が舞うとはいっても、その上でなお、

00046: 分るれば則ち經は自から經と比し〉

【分】ぶん ここでは、縦糸と横糸が分かれること。
【則】そく。すなわち 必然的に。論理的には「ならば」(⇒)に相当する。
【經】けい 縦糸のこと。
【自】じ  己自身の必然性によって。
【比】ひ  比較・類推可能な同類どうしの関係を「比」という。これに対して、縦糸と横糸のような反対物の関係を「反」という。
【文意】 糸が分かれれば縦糸は縦糸どうしで並び、

00047:       緯は自から緯と比す》

【緯】い  ここでは、横糸のこと。
【自】じ  自己自身の必然性によって。
【比】ひ  上に同じ。
【文意】 横糸は横糸同士で並ぶ。

偶関係の代表は「反偶」であるが、これに対して「比偶」がある。その他に「与偶」よぐう「汎偶」はんぐう 「互偶」ごぐう「配偶」はいぐう「親偶」しんぐう「疏偶」そぐうなどがある。


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   少し前に進もうか・・・   いちど元に戻ろうか・・・

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