条理語辞典その二


00037: 之を經し之を緯す。條理は自から分る。錦を以て之を言うに。

    【之】これを 全一者、また、これから分かれ出たもの。条理による世界構成の中にあるもの。
    【經】けい 全一者から始まる二分岐の際限ない連鎖。世界構成の縦糸。
    【緯】う  「条」の展開の次元を結ぶ概念的な線。世界構成の横糸。
    【條】じょう 二分岐とその連鎖。
    【理】り  ふたつに分かたれたものの内部構造。理がもし不完全ならば「条」と相即しない。
    【自】じ  おのずから。他の力を借りずに、あるいは、おのれ自身の必然性によって。
    【分】ぶん 相即的二項に分かれること。
    【錦】にしき 様々な色糸を用いて織り出された織物の総称。
 
00038: 爲物は經緯朱緑なり〉

    【爲】い  為すこと。時間経過を通じて作用すること。「成」の対語。
    【物】ぶつ 物質。素材。「為物」で「為すところの物」。
    【經】けい ここは比喩であるので、縦糸のこと。
    【緯】い  横糸のこと。
    【朱】しゅ 朱色。
    【緑】りょく 緑色。※注 「經緯朱緑」が、次の「鸞鳳華卉」の素材である。

00039: 成物は鸞鳳華卉なり》

    【成】せい 成ること。空間的に成立すること。「為」の対語。
    【物】ぶつ 物質。素材。「成物」で「成るところの物」
    【鸞】らん 中国の伝説上の鳥。雉に似て、雉よりも美しく、鳴き声が五音(ごいん)に合うと言われる。
    【鳳】ほう 鳳凰(ほうおう)。中国の伝説上の鳥。孔雀に似ているが、いくつかの動物を合わせて作ら
         れた姿である。
    【華】か  美しく艶あでやかな花のこと。
    【卉】き  多くの草のこと。
          ※注 「鸞鳳華卉」が、前の「經緯朱緑」の製品である。比喩ではあるが、アリストテレスの「目的因」
             に該当する。つまり、『玄語』は、アリストテレスの提唱した「四原因」に該当する概念によって構
             成されている。


00040: 其の神は則ち巧婦の意匠なり。是を以て錦は必ず一經一緯なり。

    【神】しん 活動性のこと。アリストテレスの「作用因」(動力因)に該当する。
    【巧婦】こうふ 織物を織る婦人。織り姫。
    【意匠】いしょう デザイン。より良い形を作るための設計。
    【錦】にしき 様々な色糸を用いて織り出された織物の総称。
    【一經】いちけい 一本の縦糸。また、縦糸全体。
    【一緯】いちい 一本の横糸。また横糸全体。

00041: 神は用し物は成る。是に於て

    【神】しん 活動性のこと。「神」は時間を存在の場とする。
    【用】よう 「神」が「物」に働きかけること。
    【物】ぶつ 素材。物質。「質料」に該当。
    【成】せい 「神」の作用で「物」が形作られること。形作られたものは空間を存在の場とする。
    【是に於て】ここにおいて そこで。であるから。

00042: 一緯の經と分れざる無し〉

    【一緯】いちい ここでは、一本の横糸。
    【經】けい ここでは、縦糸。
    【分】ぶん 分かれること。分離すること。

00043: 一經の緯と合せざる無し》

    【一經】いちけい ここでは、一本の縦糸。
    【緯】い  ここでは、横糸。
    【合】ごう ひとつに合わさること。統合されること。

00044: 合すれば則ち龍起鸞舞す。

    【合】ごう 縦糸と横糸が、巧婦の意匠に沿って合わさること。
    【龍起鸞舞】りゅうきらんぶ 龍が昇り、鸞が舞う様子が描かれること。

00045: 龍起鸞舞すと雖も。而も

    【龍起鸞舞】りゅうきらんぶ 上に同じ。
    【雖】いえども とは言っても。
    【而】しかも それでも

00046: 分るれば則ち經は自から經と比す〉

    【分】ぶん ここでは、縦糸と横糸が分かれること。
    【經】けい 縦糸のこと。
    【自】じ  己自身の必然性によって。
    【比】ひ  同類同士の関係を「比」という。これに対して、縦糸と横糸のような反対物の関係を「反」とい
         う。

00047:       緯は自から緯と比す》

    【緯】い  ここでは、横糸のこと。
    【自】じ  己自身の必然性によって。
    【比】ひ  上に同じ。偶関係の代表は「反偶」であるが、これに対して「比偶」がある。その他に「与偶」
         よぐう「汎偶」はんぐう「互偶」ごぐう「配偶」はいぐう「親偶」しんぐう「疏偶」そぐうなどがある。

00048: 是を以て一匹の錦。

    【是を以て】ここをもって そうであるから。
    【一匹】いっぴき 織物二反にたん(一反は2丈8尺。約11m)を一匹と数える。「匹」は対になっているものを数
          える時に使う。

00049: 性は表裏の二體を具す。

    【性】せい ここでは、表裏という相補的二項を統合した概念。
    【表裏】ひょうり 織物を構成する相補的二項。
    【二體】にたい 表(陽体)と裏(陰体)の二体。
    【具】ぐ  成立の条件として備えること。

00050: 巧婦は神を運す。

    【巧婦】こうふ 織物を織る婦人。織姫。
    【運】うん 時間の中を動くこと。時間的推移。
    【神】しん 物に働きかけて変化せしめるもの。アリストテレスの「作用因」に該当する。

00051: 蠶絲は物を立す。

    【蠶絲】さんし  蚕糸。蚕かいこが吐く糸。絹糸。
    【物】ぶつ 物質。素材。アリストテレスの「質料因」に該当する。
    【立】りつ 空間的に成立すること。

00052-53: 人巧知らず。天造の薀に至る。

    【人巧不知】じんこうしらず 人工の理については、(自分は)知らない。このころは、西洋の知識が波の
          ように押し寄せていた。梅園は顕微鏡を持っていたし、望遠鏡も覗いたことがあった。そ
          のような人工、あるいは、人巧の理については知らない、というような意味があると思わ
          れる。
    【至】いたる ここでは「天造の薀」について考えてみる、というほどの意味であろう。
    【天造】てんぞう 自然界の造化生成のこと。
    【蘊】うん  寄り集まり。うっそうとしたさま。

00054: 蓋し大物の氣物爲るや。

    【蓋】けだし 確かに。思うに。おそらく。
    【大物】だいぶつ 主として天文現象を指す語であるが、ここでは大自然の意味であろう。
    【爲】たる 送り仮名がないので「たる」と読むが、「氣物を爲すや」の方が意味を通しやすい。
    【氣】き  かたちなきものの総称。
    【物】ぶつ かたちあるものの総称。「気」と「物」は偶関係を持つ。

00055: 經緯は以て通塞す〉

    【經】けい 世界を構成する縦構造。二分岐の連鎖の方向。投網の縦糸に当たる。
    【緯】い  世界を構成する横構造。分岐を同じ次元で結ぶ線。
    【通】つう ここでは「經」が名状すべからざる存在である「一元気」に貫徹すること。「条貫」の「貫」
         と同義。通るのは「気」である。
    【塞】そく 「經」は「一元気」に貫徹するが、展開の次元は自由なものではなく、階層性を持つ。展開に
         統一した深さを与えるのが、世界構成の横構造である「緯」であり、これは展開の自由性を押
         しとどめる働きを持つ。投網の横糸に当たる。剖対反比図に明瞭に示されている。塞ぐのは
         「物」である。

00056: 精麁は以て没露す

    【精】せい 精妙・精密であること。
    【麁】そ  「粗」の別字。解説においては「粗」を用いる。
    【没】ぼつ 物質性を失うこと。空間的形態を失うこと。
    【露】ろ  物質性を持つこと。空間的形態を持つこと。

00057: 經通は時を爲し〉而して神は事を此に用す〉

    【經通】けいつう 「時」は「地冊没部」の「宇宙」(空間と時間)に所属する概念である。この「経通」は高次
          概念による時間の表記である。54-56行は、世界の構成原理たる「条理」についての記述であ
          るとして解説しているが、54行から時空間についての記述が始まっていると見れば、別の解
          説が必要になる。文意に両義性があると言える。
    【時】じ  時間。「袞袞こんこんの時」と言われる。「袞」は「滾」から水しぶきを意味する「さんずい」
         を取ることによって果てしなく大きな流れを意味するようになった。「果てしなく大きな流れで
         ある時間」というほどの意味。この意味での「時」は「宙」と同義となる。
    【爲】い  「為-成」の「為」。おおむね時間および時間現象の生起については「為」を用いる。
    【神】しん 活動性。発動因
    【事】じ  時間的諸現象。
    【用】よう 生起させる、ということ。

00058: 緯塞は處を成し》而して物は物を此に體す》

    【緯塞】いそく 高次概念による空間の表記。
    【處】しょ 処の本字。空間。場所。「坱坱おうおうの処」というときは「宇」と同義。
    【成】せい 「為-成」の「成」。おおむね空間および空間的諸存在の成立については「成」を用いる。
    【物】ぶつ 物質。素材。空間に場を占めて存在するものの総称。
    【體】たい それぞれの類型(性)に従った形態を持って、空間に現れること。

00059-60: 是を以て一匹の錦。經緯は物す〉

    【是を以て一匹の錦】 ここでふたたび錦の喩えとなる。織物→大自然→織物、つまり、卑近なもの→大自
       然→卑近なものと論じることによって「条理」の普遍性を示そうとしている。身近なものから宇宙全
       体にまで普遍妥当する論理があることを自覚している点では、ガリレイやニュートンとなんら変わら
       ないが、ここに計量性を持ち込まないのが梅園の特徴である。「人巧知らず」である。
    【經】けい ここでは、縦糸のこと。
    【緯】い  ここでは、横糸のこと。
    【物】ぶつ  縦糸・横糸は、物質あるいは素材であるということ。

00061:          紡績は事す》

    【紡績】ぼうせき 織物を織ること。
    【事】じ  事象、あるいは時間現象であるということ。

00062: 龍をして斯に起たしめ鸞をして斯に舞わしむ。

    【斯】ここ 織物のこと。
    【以下略】龍が昇り、鸞が舞う姿が描かれるということ。

00063: 表の燦爛を弄して〉而して

    【燦爛】さんらん 模様のきらびやかなさま。
    【弄】ろう もてあそぶ。ここでは、ためつすがめつ眺めてみて、というほどの意味か。

00064: 裏の隠幽を窺う》

    【隠幽】いんゆう 隠された奥深さ、というほどの意味か。
    【窺】き  うかがう。推し測る。推測する。

00065: 經緯は相い反す。

    【經】けい 縦糸。
    【緯】い  横糸。
    【相】そう 互いに。
    【反】はん 反対の関係。ただし、敵対的ではなく、相補的二項の関係である。
         一方から他方への類推は不可能である。

00066: 類類は相い比す。

    【類】るい 共通の属性を持つものを類という。「類類」は、共通の属性を持つものが並びあうこと。
         ここでは、縦糸どうし、横糸どうしが、並びあうこと。
    【相】そう 互いに。
    【比】ひ  「比偶」のこと。共通の属性を持つため、相互に比較と類推が可能である。

00067: 以て對待の道を察す。

    【以】もって これによって。(前文を受けて)以上から。
    【對待】たいたい 相補的二項の関係。正反対でありながら、一方の存在なしには成立し得ない状態を
         「待つ」という語で示している。
    【道】どう 道筋。仕組み。
    【察】さつ 推察する。推し測る。


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