校 異



以下の解説は、わたくしの間違いであった。朱筆の訂正は全て梅園自身によるもので
ある。ただし「直圓」としても「形理」としても稿本の成立年代の相違などから他の
記述との不整合を生じる。意味を理解できていればどちらをとっても差し支えない。


 本図の訂正は、見て分かるように他と異なっている。この訂正は甚だ疑問である。
というより、「直-円」を「形-理」に変更するのは概念の範疇からすれば、同図の
他の概念と不整合を生じる。                         

 「直」と「円」は、それぞれ「理」と「形」の本来の形態を言い、それを運動の面
から言えば「持」(地表付近で起きる物質の昇降運動)と「転」(天球の回転運動)
である。それゆえ、                             

 1373:  勢は天をして円転せしむ〉而して猶お地の中に違わず〉
 1374:  力は地をして直持せしむ》而して猶お天の端に差わず》

というような対として用いられる。この形態の断面は転持図に示されている。  

「形」と「理」は、天球規模では、形理正斜図を見れば分かるように「規-矩」とさ
れる。「規」は球ではなく、地球から見た惑星の回転軌道面を意味し、「矩」はその
中心から垂直に伸びる直線、つまり回転軸を意味している。この「直円規矩」の四概
念は地冊没部のものである。                         

 対して「形理」は、大小形理図を見れば分かるように、地上の諸物体の形状までを
も意味しうる。たとえば「塊」は石のような形、「邪」は河川の蛇行のような形状を
意味する。                                 

こう考えてくると、この図において「直」と「円」を「理」と「形」に訂正するのは
は不適当であることが分かってくる。これは、おそらく黄鶴の訂正であろうと思う。

当サイトでは訂正前を用い、岩波版は訂正された図を用いているが、以上の説明を読
んだ上で、訂正前に戻すべきだという当サイトの主張に疑問を持つ人はいないであろ
うと思う。                                 

訂正を校異に示すことは必要である。梅園自身の訂正である可能性も否定できないか
らである。しかし、訂正後の図を、そのまま三浦梅園の『玄語』の図であるとするこ
とは、甚だしい間違いである。                        

岩波版のこの図(P574, 図番70)を見たのではこういうことは分からない。無理解の
まま為された作業としか思えない。                      


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